私たちは,理科実験教室の題材で有名な空気砲の原理を使って,香りを局所的に搬送・提示する研究を行っています.(「香りプロジェクタ」のページ参照.)同じ原理を使って,香り以外の刺激提示を実現できないかと考えました. つまり,自由空間を通して周囲と温度や湿度の異なる空気の塊を局所的に届けることができれば,炎が燃えているシーンでの暑さ,氷や雪のシーンでの寒さ,あるいは森林に足を踏み入れたときの湿度感などを提示できるだろうという考えです.
周囲と温度や湿度の異なる空気は,密度(比重)も異なります.私たちは,まずこのような性質を持つ空気を使って,普通の場合と同じように渦輪ができるかどうかを調べてみました. 実験に使ったのは,アクリル箱の前面に穴を開け,背面をゴム膜で覆った単純な空気砲で,糸で吊したおもりを背面の膜にぶつけることにより,前面の開口から空気を射出します.
ドライアイス,振り子10度 | ドライアイス,振り子15度 |
結果の一例を示します.ドライアイスで生成した冷気を射出したところ,ある範囲の射出強さ(おもりをつけた振り子の初期角度に対応)において,渦輪の生成と飛行が観察されました.面白いことに,渦輪はまっすぐ飛ばず,下へ落ちていきます.
ミスト |
超音波発振器を使って発生させたミストの場合,水滴が大きいためか,さらにゆっくり膜をおしてやらないと渦輪は発生しませんでした.この場合,渦輪は非常にゆっくり移動しつつ,やはり下降していきます.
ここまでの実験から,空気砲の原理を使った冷気や湿気の局所的な搬送は,一応可能であろうと予測できます.しかし同時に,まっすぐに飛ばないため,目標に命中させるには軌道の曲がり方を予測して射出する必要があるなど,解決しなければならない課題も発見されました.