振動子アレイを用いた情報提示は,1970年前後から,主として感覚代行分野で優れた研究が行われてきました.文字などを提示する際にそのままドットパターンを十分提示可能な刺激点数が用いられることが多かったのですが,全身型触覚提示へと展開するにあたり,私たちはシステム規模の観点から,刺激点数をなるべく少なくしたいと考えました.そこで,3×3という,極めて少ない点数の振動子アレイを用いて,振動刺激による文字情報提示が可能かどうかを調べてみました.
このような少ない刺激点数では,ドットパターンをそのまま提示しても識別不可能であることは明らかです.そこで,文字を書く時の書き順に着目し,縦線,横線,斜め線,ぐるっと回すといった,大まかなパターンを時系列で提示することで文字を識別できないかと考えました.それぞれのストローク提示には,複数点を適切な長さと時間差で刺激することにより刺激が動いたかのように感じられる,仮現運動の現象を利用しました.
椅子の背部に装着した3×3の振動子アレイにより,数字と英大文字(ただし,"2"と"Z"など,動きを使ってもこの刺激点数で区別できないものは除く)のセットから,87%の正答率が得られました.なお,この数字は振動子アレイにおける各刺激点の位置識別とほぼ同等の値です.
この結果から,全身型振動触覚による情報提示を行うにあたり,高密度で刺激点を配置しなくても,意味のある情報伝達ができる可能性が示唆されました.
(本研究は,柳田がATR在籍時代に,野間春生氏,Robert Lindeman氏, 鉄谷信二氏らと共同で行ったものです.)