水平視野角 | 頭部運動 | ||||
HMD | deg. | 頭部回転角 | deg. | ||
カメラ | deg. | 動作時間 | s | ||
休止時間 | s | ||||
表示図形 | 箱形 扇形 | 速度表示 | |||
速度サイズ | |||||
正面安定化 |
HMDの視野角とカメラの画角が異なるときに観察される「世界変形」の説明です.
この図はTop Viewで,ウィンドウの上側が正面方向です.ウィンドウ下部にある逆T字印はユーザーの頭部方向を示しています.
HMDの視野角とカメラの画角が異なる時,バーチャル世界がどのように知覚されるか,メッシュで示しています.細い線が本来見えるはずの空間,太い線が視野角の違いによって歪んだ空間を示します.
HMDの視野角を \(\phi_d\), カメラの画角を \(\phi_c\) としたとき,HMDを通して知覚される世界は奥行き方向にのみ
\(\qquad\displaystyle \beta = \frac{\tan(\phi_c/2)}{\tan(\phi_d/2)}\)
という比率で拡大・縮小されます.
HMDの視野角に対して広角のカメラ画像を使うと奥行きが引き延ばされ,逆に望遠のカメラ画像を使うと奥行きが圧縮されます.この現象は写真撮影における空間の広がりを表現する手法として広く利用されていますが,HMDを使っているときは両眼立体視により空間の非等方的な拡大・縮小が明示的に知覚されることになります.
さらに,この状態でユーザーが頭を動かすと,拡大・縮小される方向が動的に変化するため,世界が動的に変形して見えます.
ここでは,頭部は,正面からの角度が正弦波,すなわち
\(\qquad\theta(t) = \pm A \sin \pi (t/T-1/2)\)
という動きを行うものとします.ただし,\(A\) は左右の首振り角度,\(t\) は動き始めてからの時間,\(T\) は,左端から右端,もしくは右端から左端まで頭部を振るのにかかる時間です.
広角カメラを使っているときは正面方向が頭部にくっついて動き,拡大軸の方向変化とともにその両脇がぐにゃぐにゃ変形して見えます.望遠カメラを使っているときはもう少し厄介な状況で,正面方向の世界が頭部運動とは逆方向に流れますので,より酔いやすくなることが懸念されます.
以上より,HMDを装着する場合,理想的なのはやはりHMDの視野角とカメラ・CGの画角が等しいことであることがわかります.HMDの視野角が物足りないからといってむやみに映像の画角を拡げると,視野内により多くのものが見えるようになるメリットはあるものの注意が必要です.逆に,遠くのものを見たいからといって単純にステレオカメラのレンズを望遠にすると,頭部運動に対して世界が逆方向に流れるため,これもよろしくありません.
HMDの視野角とカメラの画角をどうしても一致させられない場合,カメラの回転角を頭部回転角の \(\beta\) 倍にすると,正面方向に見える物体・環境の横方向の流れが止まります.視野周辺の変形は避けられませんが,正面方向が揺れることはないため,視野角不整合が避けられない状況でもある程度の作業性確保が期待できます.
[参考文献]
柳田,舘:HMD型テレイグジスタンスの頭部運動時における視野角不整合の影響,日本バーチャルリアリティ学会論文誌,Vol. 7, No. 1, pp. 69-78, 2002.
更新履歴
作成:2020年6月6日